HOME > コラム > 第3回「目標設定する前に考えること」

[連載] 第3回「目標設定する前に考えること」
取締役COO 布施 努
スポーツにおいても、経営においても、成長は、目標を設定し、それを達成すること、あるいは、達成しようと努力することから生まれる。目標とは、達成を目指す人にとってのエネルギーだ。
このエネルギーの大きさは、目標の大きさに比例する。また、目標が生み出すエネルギーの大きさは、「目標の大きさ」から、達成を目指す人の「実力の大きさ」を引き算して求めることができる。
例えば、初心者ゴルファーが、「120」で回るという目標を持ったとする。当人の実力レベルからすれば、決して不可能ではない。この場合、当人の実力の大きさをAとし、目標の大きさをBとすると、2つともだいたい同じ大きさとなる。したがって、B−Aは「0」だ。つまり、目標が生み出すエネルギーが「0」ということである。
では、「100を切る」という目標を設定した場合はどうか。120を目指す時よりも、難易度が高くなる。これをCという円で表し、CからAを引き算してみると、余りが出る。この大きさが、「100を切る」という目標が生み出すエネルギーの大きさだ。
もっとも、無闇に大きな目標を掲げればいいというわけではない。
目標から生じるエネルギーを当人のモチベーションにするためには、「100を切る」という目標を達成するという決意が必要だ。目標から生まれるエネルギーは、設定するだけでなく、「達成する」「そのための努力をする」という断固たる決意により、当人のモチベーションになるのである。
経営においても、経営者やリーダーは常にあらゆる目標を設定しているはずだ。それぞれの目標が、エネルギーを生み出している。しかし、そのエネルギーがスタッフのモチベーションになっているかといえば、必ずしもそうとは言えない。目標を「達成しよう」と、全員が決意していない場合があるからだ。
具体的に考えてみよう。
毎月100台販売している自動車ディーラーが、「今月は200台売る」という目標を設定したとする。しかし、新人には、200台売るという意義がよく分からない。中堅スタッフは「売れっこない」と思う。いずれの場合も、目標に対してのコミットがない。「なにがなんでも200台売る」という断固たる決意がないため、モチベーションにならない。
目標設定がうまく機能しない原因が、ここにある。
経営者やリーダーの行動に着目してみると、「200台売る」といった目標を設定し、それを社員やチームのスタッフに「伝達」している。オフィス内に「目標200台!」という張り紙をして、雰囲気作りにも努めているかもしれない。しかし、目標を「伝達」しているうちは、伝達している方も、されている方も、他人事である。
「誰かがやるだろう」
そう思うから人任せになる。
「オレがやらなくても大丈夫」
そう思うから聞き流す。
「200台売りましょう!」「頑張りましょう」と、口を揃えたとしても、それは表面上のことであり、本心からコミットしていなければ、決意とは言えないのである。
心理的にアプローチすれば、他人事とは、「できっこない」「やりたくない」という意識が働いている状態だ。こういう心理は、自分の領域が侵されていると感じた時に生じやすい。例えば、「200台売るために、これから3カ月は1日も休まない」という方針を立てれば、社員の多くは、「そんなのイヤだ」と思うだろう。その瞬間に、目標は他人事になる。
目標を共有し「他人事」から「自分事」へ
では、経営陣やリーダーは、なにを心がけるべきなのか。
重要なのは、目標を「共有」することだ。共有とは、簡単にいえば、他人事の逆である。社員1人ひとりが「自分事」だと認識することだ。
企業では、部署間で情報を「共有」する、会社の目標を「共有」する、現状の問題点を「共有」するなど、「共有」という言葉が頻繁に使われる。
しかし、果たして本当に共有できているだろうか。
例えば、ある部署が人手不足で、トラブルやクレームが増えているとする。他部署のスタッフは、そういう事情があるのを聞き、「そうなんだ」「大変だ」と感じる。これを「共有」だと認識してしまっているケースが意外と多い。しかし、ここで行われているのは、ある部署での問題点を、他の部署に報告するということに過ぎない。つまり、「伝達」である。
本当に「共有」できていれば、他の部署のスタッフが、人手不足の業務をサポートしたり、トラブルの対策やクレームの対応を手伝ったり、積極的に協力し、解決に取組むだろう。
目標についても同じである。経営陣が「200台売る」と言い、スタッフが「そうなんだ」「大変だ」と思う。それは、経営陣からスタッフに目標を伝達しただけであり、共有ではない。
また、経営者と従業員の間には、目標に対する認識の差がある。目標設定をする際には、この点も踏まえておきたい。
ある目標を設定した場合に、経営陣やリーダーには、その重要性が分かっている。目標設定の背景には、利益計算や他社の動向といった事情、あるいは企業理念がある。経営陣やリーダーにはそれが分かっているから、目標を達成する必要性も、達成できるかどうかが、どのように影響するのかも分かる。しかし、スタッフには背景が分からない。したがって、「200台売る」という目標からは、「200台売る」ということしか読み取れない。
「200台売る」という目標の一部分しか見えなければ、スタッフはおそらく、数字のために働いているような感覚になるだろう。目の前の業務が、部やチーム、あるいは会社全体としてどれだけ重要なのかが見えず、結果として、会社から与えられる目標が他人事になるのである。
もちろん、目標を設定する上では、経営陣やリーダー本人が、「自分事」と捉えているか確認する必要もあるだろう。目標達成に必死であれば、スタッフに喝を入れにいったり、個別に面談して問題点を聞き出したり、いろいろなことをするはずだ。スタッフに「自分事」と感じてもらうためには、なによりもまず、目標の設定者が「自分事」と感じていなければならない。




