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コラム

業績アップが約束される「心の方程式」

[連載] 第4回「ちょうどいい目標の高さとは」
取締役COO 布施 努

 個人も企業も「目標を設定する」と「目標を達成する」をくり返すことにより、成長する。一方で、「いくら目標を与えても、スタッフが奮起しない」「目標を設定しているのに、成長につながらない」と悩むリーダーも少なくない。そこで今回は、目標設定の仕方について考えてみる。
 目標を達成へと導けない理由、あるいは目標設定を成長へと発展させられない理由は、設定する目標の高さと、目標に取組む人の実力とのバランスにある。
 これを簡単に示すのが、「CSバランス」の図である。縦軸に取っている「C」はチャレンジ(挑戦課題や目標の高さ)、横軸の「S」は、スキル(実力)である。
「C」が「S」よりも高過ぎると、取組むスタッフは、「無理だ」「できっこない」と感じてしまう。結果、目標に対して取組むのがイヤになる。諦めたり、挫折することもある。
 逆に、もし「C」が「S」に対して低過ぎると、「努力しなくても達成できるだろう」という意識が生じ、モチベーションが上がらず、そのうち飽きてしまう。あるいは、容易に達成できるだけに、かえって「絶対に達成しなければならない」という余計なプレッシャーがかかり、力んでしまって、結果的に失敗する場合もある。
 ちょうどいい目標の高さ、つまり挑戦意欲がかき立てられ、成長につながりやすい目標の高さは、「ジャンプして、ようやく届く高さ」だ。
 例えば、仕事に集中し、あっという間に1日が終わってしまうことがある。1日を終え、「今日はいい仕事ができた」「気持いい1日だった」と感じる。目標の高さがちょうどよく、目標に対してよい心理状態で取組めた時ほど、こういう状態(フロー〔flow〕状態)に入りやすいし、結果も自然と伴ってくる。まずは感覚的な目安として、「背伸びして届くかどうか」という高さを覚えておきたい。
 成功例を1つ挙げておこう。
 ソニーが犬型ロボット「AIBO」を開発する過程で、開発陣はまず、1分に2m歩けるロボットを作った。ソニーとしては初のロボット開発であり、記念すべき成功の第一歩とも言えるのだが、さて、この成果を、開発陣の上司はどう評価したか。 「よくやった」とは、褒めなかった。当時の技術の世界標準を踏まえ、「1分に7m歩くロボットを開発できるはずだ」という目標を与えた。
 開発者はこの目標に奮起し、最終的に1分間に9m歩く技術を確立する。だが、おそらく、2mの成功で褒められていたら、そこで満足し、技術はそれ以上成長しなかっただろう。一方、「20m歩けるロボットでないと商品にならない」という高過ぎる目標を設定した場合も、開発陣は「それは無理だ」と感じてしまったはずだ。7mという「背伸びして届くかどうか」の目標設定が、重要だったのである。

効果を高めるためには「中身」より「考え方」

 さて、ここからは具体的な話。目標を設定する際に踏まえておくべきポイントを確認しておこう。
 目標設定の基本要素となるのが、「SMART」だ。

(specific):明確さ
(measurable):測定可能
(achievable):達成可能
(relevant):従事者本人との関連性
(timely):時間設定

 ソニーの例で言えば、「7m」という数値は、SとMの部分。目標は具体的で、達成度合いを明確に評価できるように設定することが望ましい。また、「背伸びしてようやく届くかどうか」という高さは、Aに当たる。
 Rとはなにか。前話でも触れた通り、目標設定で重要なのは、目標の内容や意義を「伝達」することではなく、「共有」することである。個々に与えた業務が、チームや会社にとってどんな意義があるのか。当人にとってどういう意味があるのか。目標を達成することが、チームや企業にどのような貢献をもたらすのか。そういったことを理解させるのが、「R:従事者本人との関連性」だ。
 その過程では、目標の意義や内容など、理解してもらいたいことを繰り返し説明する必要がある。重要なことほど、たくさん言う。伝えたいことほど、毎日言う。個々が目標の意義や内容を完全に理解して、ようやくトップダウン型の目標が、スタッフ当人に関連するのである。
「T:時間設定」とは、「いつまでに実行・達成する」の「いつまで」を明確にすることだ。「1週間で実行する」「3カ月で達成する」といった時間軸を意識することである。
 しかし、スタッフによっては、大きな時間軸を捉えるのが苦手な場合もある。「3カ月で新製品を売込む」という目標を与えた場合に、「3カ月では無理だ」「頑張っても達成できない」と感じてしまうタイプだ。あるいは、目標達成までの期間が長く、熱意や集中力が持続しない人もいる。
 こういうタイプに対しては、時間を分割して、目標を細分化して設定する必要がある。まずはこの1カ月でリサーチを行い、次の月にマーケティングを行い、最後の月に営業をかけるといった具合だ。必要に応じて、さらに細分化してもいい。
 当然だが、言い方を変えているだけで、与えている目標の中身は同じである。だが、当人にとっては見え方が違う。ここが重要だ。
 階段で考えてみると分かりやすいだろう。周りから見れば、スキルのある人なら簡単に上れる1段がある。しかし、当人にはその1段が高く見える。そこで、ステップを分割し、「スモールステップ」を作ってやる。当人にとって「背伸びして取組めば、達成できなくはない」と感じられる高さに置き換えてやるという工夫だ。
 リーダーの中には、仕事をおおざっぱに振って、それで終わりにしている人も多い。しかし実は、その振り方が、目標達成、あるいは成長に導けない原因になっている。目標に取組むスタッフにとって、アプローチしやすい方法を提示することも、リーダーの重要な役割だ。目標の達成や成長に導けない原因は、目標の中身ではなく、取組む人の見え方にあることが多いのである。
 「CSバランス」に話を戻すと、より高いパフォーマンスを引き出すためには、「C」(挑戦課題や目標の高さ)と「S」(スキル・実力)の両方を高めていく必要がある。図で言うと、右上の方向に引っぱっていくということだ。
 「S」は、個々がトレーニングすることによって向上していくもの。では、「C」を高めていくためにはどうするのか。経営者やリーダーが、目標に対して取組む個々に、「背伸びして届くかどうか」という高さの目標を設定し、引き上げていく必要がある。この繰り返しにより、目標設定は、個人と企業の成長へと発展していくのである。