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[連載] 第5回「無意識の行動を変えるには」
取締役COO 布施 努
今回は、心のトレーニング方法について考えてみよう。
個人が発揮できるパフォーマンスの大きさは、「心」×「技」×「体」のレベルが反映される。なかで、「技」と「体」についてはトレーニングによって向上させることができるが、さて、「心」はどうだろうか。
実は、心もトレーニングできる。しかしながら、全てではない。
人の心理は、大きく2つに分けることができる。1つは、「意識」している分野。もう1つは、「無意識」な分野だ。トレーニングできるのは、意識している分野だけである。例えば、常に「ポジティブ」な状態でいられるよう、心をトレーニングしたいと思ったとする。そのためには、まず自分とポジティブとの関係を意識する必要がある。「自分がポジティブなのかどうか、考えたことがない」という無意識の状態では、トレーニングのしようがない。意識することによって、初めてトレーニングできる要素となるのである。
次に、ポジティブがどのような状態を指すのか、知識として認識する必要がある。ポジティブが、「状況を問わず、物事を前向きに捉え、取組む」という心理であることが分かれば、その状態と自分とを照らし合わせてみることができる。足りない部分、つまりトレーニングすべき部分も見えてくる。
しかし、知識としてポジティブが何たるかが分かっても、ポジティブになれるとは限らない。重要なのは、実際にポジティブに行動できるかどうかである。
この流れを簡単に言えば、以下のようになる。
- 意識する
- 知る
- 行動する
実は、多くの人が、「2:知る」の段階まで進んだところで、止まってしまう。「ポジティブとはこういう心理だ」「ポジティブであることは大事だ」という知識を持ち、それで自分がポジティブになったような気になってしまう。しかし、知識は、忘れてしまえばそれで終わりだ。重要なのは、「3:行動する」の段階に進むこと。書いて字のごとく「実際にやってみる」ことだ。トレーニングとはつまり、知識として得たものを実践することである。
以上の前提を踏まえたところで、さて、トレーニングの方法だ。
トレーニングのポイントは、以下の3つである。
1:くり返しの原則
反復練習によって身につけるということ。知識として得たことを、行動として実践する練習をくり返し、身につけていくということだ。
2:負荷の原則
トレーニングを進めるにつれ、徐々に負荷をかけていくということである。筋肉トレーニングと同じで、10㎏から始めたら、12㎏、15㎏と負荷を大きくしていくことで、より深く、根強く身につく。
3:特異性
これは、特にトレーニングを指示する人に重要な項目だ。トレーニングを行う人にとって、より効果的な方法を選択していくことである。
あるテーマ(例えば、ポジティブを心がけるなど)を掲げ、くり返し、負荷をかけながらトレーニングをしていけば、「ポジティブ=前向きな姿勢」という知識として得たものが、行動として実践できるようになる。やがて、意識しなくてもポジティブな行動が取れるようになり、意識しなくても、常にポジティブな心理状態が保てるようになる。
最終的に目指すのは、こうした心理状態だ。つまり無意識から始め、無意識に戻る。当初は無意識で「ネガティブ」だった状態から、トレーニングを経て、無意識で「ポジティブ」な状態に変わるのである。
チームなどの集団でトレーニングを行う場合も、流れやポイントは基本的に同じである。ただ、心理状態を構成する「言葉」と「態度」が、トレーニングの成果を左右することを踏まえておく必要があるだろう。
例えば、チーム全体で「日本一」を目指すとする。この目標に向かって全員が団結するためには、チームメンバー全員が、「日本一」がどういうものなのか、「言葉」で説明できなければならない。漠然としたイメージしか持っていないと、それは無意識の状態と同じである。すなわち、トレーニングできない。
また、「日本一なんて無理だ」「なぜ日本一になる必要があるのだろう」といった諦めや疑問がある場合にも、やはりトレーニングは実を結ばない。弱気な「言葉」は、取組む人のセルフイメージを小さくするからだ。
「態度」とは、目標に取組む際に関連する競合(相手)、同僚、上司などに対するものである。チームで目標達成を目指す場合には、個人だけがトレーニングに励むのではなく、周囲の人を意識することが重要になる。具体的に言うと、競合を意識することで、「トレーニングに手を抜けない」という感覚が生まれる。同僚や上司を意識することで、「周りも努力している。自分もさらに努力しよう」という意識が芽生えるのである。
実際にトレーニングに励むのは、個々のスタッフである。一方、リーダーは、チームのパフォーマンスを上げるために必要なトレーニング要素を抽出する役目を担う。また、トレーニングプログラムを作り、スタッフたちの「言葉」と「態度」に注意を払いながら進行していく役目も、リーダーの役目だ。
最後に、具体例をひとつ。
例えば、チーム内の「感謝の気持ち」をトレーニングするとしよう。
そのためには、まず「感謝」というものがなにかを意識させなければならない。そこで、例えば、最初に12時、15時、17時といった具合に時刻を決め、「感謝」と言うように指示する。すると、各自の中にある「感謝の気持ち」が、意識として表れる(くり返しの原則)。
次に、感謝を「ありがとうございます」という言葉にして、同じように時刻を決めて口にしてみる。これができたら、あらゆる場面で使ってみる。従業員との会話の終わりに、あるいはお客と会話する際の第一声に、「ありがとうございます」と言う(負荷の原則)。
言うほどに、言い方や表情も自然になってくるだろう。「ありがとうございます」と言った時のお客の反応を見る力もついてくる。投書箱などを設けておけば、「挨拶が気持ちよい」といった声が入るかもしれない(特異性)。すると、さらにやる気が出る。
トレーニングを重ねるにつれ、「ありがとうございます」と言わないことや、「ありがとうございます」の声を聞かない環境が、居心地悪く感じるようになるはずだ。結果、無意識の行動が変わるのである。




